オトギバナシ

あれからどうよ。

漠然として当たり障りのないお互いの近況を話してしまうと、核心だけが残った。今度は半径何キロという距離感の

ある内容ではなく、わたしの心の内に直接投げられた問いだった。敢えて視線を外したようだった。H子はグラスの

水滴を人差し指でなぞると、紙ナプキンでゆっくりとその指を拭き、グラス下の水も拭き取っている。自分の問いかけ

に相手がなんと答えるのかと、何気ない動作をしていても耳だけはその時を待っているようだった。

あれからどうよ。

わたしにとっては一番聞いて欲しいことだったが、今のH子から見たら自分の話など、ただの戯言に過ぎない。夫と

別れ、四人の娘を育て母親の面倒を看ながら介護関係の事務所で働くH子の方が、背負っている荷物の嵩も行く

道の険しさも自分よりも重く大きくなっている。学生の頃、「アンタはなんでそんなに強いの」とわたしに訊ねたH子は

普通の家で普通に育ち、わたしには望めない幸せの形を得て、わたしの考える普通の人生を送るのだろうと思って

いた。思っていたというよりも、わたしから見れば、H子の善人さと彼女の居る環境からそうなるべきと信じていた。

親の干渉も居るからこそで、わたしのように居ない人間からすれば幸せよと説いた時代は、遥か彼方の話になり、

置かれている環境もまた時の流れで変化していた。

あれからどうよ。

H子とわたしにとって、あれからという意味もどうよという答えも、今ではどうにもならない事だとわかりきっている事

だった。ただお互いの胸に引っ掛かった物の得体を確認する儀式に過ぎなかった。

「どうしようもないよ、此処まで来ちゃったんだもん」 「仕方ないよ、自分で決めたんだから」。H子は肩を落とすよう

にひとつ息を吐くと、メニューを取りながらニヤリと小さく笑った。駅前のパーラーでパフェにすると決めた高校時代の

H子と同じ顔がそこにあった。同じものをと、高校時代とは違うわたしの顔もあった。

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